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東京地方裁判所 平成5年(ワ)10287号 判決

原告

長谷川勝美

被告

国産自動車交通株式会社

主文

一  被告は、原告に対し、金二五四万九八〇五円及びこれに対する平成二年六月一九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

四  訴訟費用は、これを四分し、その一を被告の、その余を原告の各負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一原告の請求

一  被告は、原告に対し、金九五五万一〇二三円及びこれに対する平成二年六月一九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用の被告の負担及び仮執行の宣言

第二事案の概要

一  本件は、首都高速道路七号線の上り路上において、他の事故により停車中の原告車両に被告車両が追突したことから、その物損について賠償請求を行つた事案である。

二  争いのない事実

1  本件交通事故の発生

事故の日時 平成二年六月一九日午前二時一〇分ころ

事故の場所 東京都江戸川区春江二―四〇首都高速道路七号線上り七三六〇ポイント地点

原告車両 原告が所有し、運転する普通乗用自動車(メルセデスベンツ三八〇SLC、足立三三て五八九〇)

被告車両 被告従業員佐久間正光(以下「佐久間」という。)が運転する普通乗用自動車(足立五五く六四七二)

事故の態様 前記道路上において、まず、原告車両の前部と毎日タクシー従業員石橋敏幸(以下「石橋」という。)が運転する普通乗用自動車(足立五五く五四三〇。以下「第三車両」という。)の後部が接触するとの事故があり(以下「第一事故」という。)、このため、停車中の原告車両の後部に被告車両が追突した。しかし、これらの事故態様及び原因については当事者間に争いがある。

事故の結果 原告車両が損傷した。

2  業務遂行中の事故

佐久間は、被告の従業員であり、その業務として被告車両を運転していた。

三  本件の争点

1  本件事故の態様

(一) 原告

原告車両が前記道路の走行車線を走行中、第三車両が原告車両を追い越そうとして追越車線に変更したところ、その前方に大型貨物自動車が走つていたため、第三車両は原告車両の前方に進路を変更し、その際、その後部を原告車両前部バンパー右端に接触させた。このため、第三車両、原告車両の順に路肩に寄せて停車したところ、その直後に被告車両が追突した。

本件事故現場は見通しがよく、本件事故は、佐久間の一方的な過失によるものである。

(二) 被告

原告車両が前記道路の走行車線を走行中、第三車両が原告車両を追い越そうとして追越車線に変更したところ、原告は追越しを妨害するため第三車両の進行方向に原告車両のハンドルを切つて車寄せをしたため、第三車両の左後部と原告車両前部バンパー右端とが接触した。しかるに、原告は、石橋に抗議するため走行車線上の第三車両の後ろに停車標識を出すことなく原告車両を停車させたところ、被告車両が追突した。

第一事故は原告の過失が原因となつて起きたものであり、その後の原告車両の停車方法にも原告の過失があるので、四割の過失相殺を主張する。

2  損害額

(一) 原告

(1) 車両牽引料 一万三三九〇円

(2) バツテリー交換取付費 三万六四〇〇円

(3) フユーズ交換修理費 四〇〇〇円

(4) 修理代 三九〇万七二三三円

第一事故の結果原告車両に何らかの損傷が生じたとしても、本件事故により被害の程度が増大した。

(5) 代車料(一日五万円宛七三日分)三六五万〇〇〇〇円

(6) 評価損 一九四万〇〇〇〇円

(二) 被告

バツテリーとフユーズの交換は、本件事故が原因となるものでない。本件事故を原因とする原告車両の損傷に関する修理費は、一八五万九〇八九円に限られる。

代車料は一日一万五〇〇〇円宛二週間分の二一万円が相当である。

評価損の主張を争う。

第三争点に対する判断

一  本件事故の態様

1  前示争いのない事実に甲一、乙三、四の1ないし7、証人佐久間正光、原告本人を総合すると、次の事実が認められる。

(1) 首都高速道路七号線上りの本件事故現場付近は、片側二車線であるが都心に向かつて右側にカーブしており、見通しの良い場所ではない。原告は、本件事故のあつた平成二年六月一九日午前二時一〇分ころ、都心方向に向かうため原告車両を運転して前記道路の走行車線を走行していたところ、石橋運転の第三車両は、原告車両を追い越そうとして追越車線に車線を変更した。しかし、その前方に大型貨物自動車が走つており、同車両がブレーキをかけたため、第三車両は原告車両の前方に進路を変更し、その際、その後部を原告車両前部バンパー右端に接触させ、第一事故が発生した。このため、走行車線上に第三車両、原告車両の順に停車することとなつた。その後、第三車両横の追越車線上には赤色のタクシーが事故見物のため停車した。

(2) 佐久間は、被告車両を運転し、時速約八〇キロメートルの速度で走行車線を走行していたところ、五〇メートル以上前方に原告車両と第三車両が停止しているのを発見したが、追越車線に車線変更すれば通り抜けることができると思つて、そのまま走行した。しかし、原告車両の五〇メートル手前を過ぎたときに追越車線上に停車中の赤色のタクシーを発見し、三〇メートル手前で急ブレーキをかけたが間に合わず原告車両に追突した。

原告は、本人尋問において、第一事故により原告車両を停車した直後に被告車両が追突したと供述するが、前認定の事実に照らし(被告車両の走行速度と佐久間の原告車両の発見位置からすれば、第一事故後本件事故の発生までに、数秒間経過していることが推認される。)、採用しない。もつとも、原告は、原告車両のドアを開けて降りようとしたときに追突されたとも供述しており、右供述は、前認定事実と矛盾するものではなく、採用し得る。第一事故についての被告の主張を裏付ける証拠はない。

2  前認定の事実によれば、佐久間が原告車両の停車に気がつきながら追越車線に車線変更すれば通行が可能であると軽信して時速八〇キロメートルのまま走行したことが本件事故の主な原因であることは明らかである。

3  ところで、前認定の事実によれば、第一事故は、石橋の過失によつて生じたものであり、原告には特段の過失があるとは認め難いが、道路交通法七五条の八第一項二号によれば、自動車専用道路においては、駐車することがやむを得ない場合であつても、路肩に自動車を駐車すべきものとされているところ、原告は、走行車線上に原告車両を停車させているのである。この点、原告は、本人尋問において、路肩によせて停車する時間的な余裕がなかつたと供述するが、前認定判断に照らし、採用し難く、原告は、客観的には路肩に寄せて原告車両を停車する時間的余裕は数秒間存在したものというべきである。もつとも、自動車運転者としては第一事故により精神的に動揺し、暫時茫然としたり、急いで車外に出ることも十分に考えることができ、この点の原告の落ち度を過大評価すべきではない。

なお、被告は、原告が停車標識を出さなかつたと主張するが、前認定の事実によれば、原告には、同標識を出す程度までは時間的な余裕がなかつたものと認めるべきである。

4  そして、原告の前示過失と佐久間の過失を過失の双方を対比して勘案すると、本件事故で原告の被つた損害については、その五パーセントを過失相殺によつて減ずるのが相当である。

二  原告の損害額について

1  車両牽引料 一万三三九〇円

甲二によれば、原告車両の牽引のため右代金を要したことが認められる。

2  バツテリー交換取付費及びフユーズ交換修理費 なし

原告は、バツテリー交換取付費三万六四〇〇円とフユーズ交換修理費四〇〇〇円を請求し、甲三ないし五を提出するが、これらの書証は本件事故前の昭和六三年三月の請求書等であり、これらからは、本件事故の結果、バツテリーの交換等を要したことは認め難く、他にこれを認めるに足りる証拠はない。

3  修理代 二二一万〇六一六円

乙一の1ないし3、二、証人池宏昭によれば、被告は、本件事故の後である平成二年六月末か七月初旬頃に、原告車両の修理費用の見積もりを株式会社カナヤの墨田サービスセンターに依頼したところ、第一事故による損傷も含めて消費税込みで二二三万七三九六円と見積もられたことが認められる。

他方、原告は、修理代として三九〇万七二三三円を請求し、その証拠として甲六を提出する。甲六は、福徳モーターワークスが九一年一二月二〇日に(株)カナヤ宛てに作成したとの体裁の見積書であり、ベンツ三八〇SLCの修理代として三九〇万七二三三円を要するものと見積もられている。そして、原告は、本人尋問において、右見積書を株式会社カナヤの佐渡部長から受領したと供述する。しかし、株式会社カナヤは自社で見積もりをすることが可能であつて、原告車両の修理代金を既に見積もつているのに外部にこれを発注することは不自然であること、及び証人池宏昭は、佐渡部長に確認をとつたところ、福徳モーターワークスに依頼はしていないとのことであつたと供述し、乙二もこれに沿うことから、これらの証拠に照らし、甲六及びこれに関する原告本人の供述は直ちに採用しがたい。

仮に、甲六が原告の供述どおりのものであるとしても、本件事故後一年半経過した時点の見積もりであり、甲七の1ないし22、原告本人によれば、原告車両は雨ざらしで置かれたことが認められるのであつて、第一事故及び本件事故が原因となつた損傷以外の損傷部分を含めての修理費用の見積もりであるといわざるを得ず、甲六に記載された修理費用額に基づいて修理費用を算定するのは適当でない。

そうすると、前示の株式会社カナヤ墨田サービスセンターの見積もりによる他はないところ、乙一の1ないし3によれば、同見積もりには、フロントバンパー、前部右側フエンダー及び右ドアの修理代も含まれていることが認められる。そして、被告は、これらの部位は第一事故により生じたものであると主張するが、原告は、本人尋問において第一事故ではフロントバンパーのみが損傷したと供述する。よつて検討すると、同供述は前示の事故態様とも整合すること、本件事故により右後部フエンダーが大破しているのであり(乙四の2、4、5により認める。)、その影響を受けて原告車両の右ドアや前部右側フエンダーにも衝撃が及んで板金が必要な損傷を受けることがあり得ることから、民法七一九条一項後段の趣旨に照らし、原告車両の右ドアや前部右側フエンダーの修理費用も被告に負担させることとする。そして、乙一の3によれば、フロントバンパーの修理費用見積額は二万六〇〇〇円及びその消費税分七八〇円と認められるから、前示修理見積額二二三万七三九六円からこれらの金額を控除した二二一万〇六一六円が本件事故による修理代と認める。

4  代車料 二一万〇〇〇〇円

原告は、本人尋問において、本件事故当初は穂戸田某からベンツ五〇〇SELを一日四万円として三〇日間借り受け、その後、たつの商会から三、四度一週間毎代車を安価で借り受けたと供述し、甲一一、一二はこれに沿う。しかし、甲一一の請求書は平成二年七月二五日付のものであるところ、原告本人尋問によれば、原告は本件事故のため二〇日間程度入院し、その後も約一月間友人に車を乗せてもらつて通院治療を受けていたことが認められ、本件事故当初は原告が代車を必要としない期間であることが明らかであり、前示各証拠によつては、本件事故当初の代車の事実は認めがたい。その後の代車についても、たつの商会の請求書等を提出しないことから、原告の右供述をそのまま採用することは困難であるが、同供述から何日間かは代車をしたことが窺われるのであり、その代車料としては被告の主張する二一万円と認めるのが相当である。

5  評価損 二五万〇〇〇〇円

原告車両が何時新規登録されたのかを知る証拠はないが、甲二によれば、原告車両は、本件事故までに七万八五二七キロメートルを走行したべンツであることが認められる。この点に前示の破損の程度、修理見積金額を総合すると、本件事故による評価損として二五万円と認めるのが相当である。

6  以上のとおり、原告の損害の合計は、二六八万四〇〇六円となり、前記過失相殺後の損害額は、二五四万九八〇五円となる。

第四結論

以上の次第であるから、原告の本件請求は、被告に対し、二五四万九八〇五円及びこれに対する本件事故の日である平成二年六月一九日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるが、その余の請求は理由がないから棄却すべきである。

(裁判官 南敏文)

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